2017/02/02    10:51

「アメリカは移民の国」 決めるのは誰?

ドナルド・トランプ米大統領が、テロ対策を名目に署名した大統領令に対して、世界中から非難の声が上がっている。大統領令は、テロリストが流入する恐れがあるとする中東やアフリカの7カ国からの入国を、90日間にわたって停止するもの。同時に、難民の受け入れも120日間、凍結された。

大統領令が突然、実施されたことで、アメリカ各地の空港では、ビザを持っているにもかかわらず入国を拒否されたり、身柄を拘束されたりする人が相次ぐなど、混乱が広がっている。

トランプ氏のやり方が乱暴だったことは否めない。すでに永住権を取得してしている人までもがターゲットにされるなど、明確であるべきルールの境界線は極めて分かりにくい。空港で不快な身体検査を受けた人もいる。

その一方で、大統領令を批判している側の意見を読んでも、こちらも印象論ばかりが先行していて、釈然としないところがある。特に疑問なのは、国境の管理や、アメリカという国の国柄を決めるのは、誰の権利なのかという点だ。

日本の主要な新聞も、読売を除いては31日付でこぞってトランプ氏を批判した。おおむね、トランプ氏のやり方は①乱暴で、②寛容な移民国家というアメリカの国是に背を向ける行為であり、③テロ対策としても有効ではないといったあたりが、主要な論拠のようだ。

しかし、各紙の主張が見落としていると思われる点がある。それは、そもそも、国境を管理して国内の治安を守るという行為は、国家としての権利ではないのだろうかということだ。トランプ氏が取った方法論についての議論はあるとしても、どのような人物が入国できるかを政府が決められなければ、国の安全は守りようがない。

実際に、アメリカの移民国籍法は、「アメリカの国益にとって有害だと大統領が考える場合」、外国人の入国を停止することができるとしている((f) Suspension of entry or imposition of restrictions by President)。

また、今回の大統領令については、イスラム教徒を実質的に狙い撃ちにするもので、信教の自由を定めた合衆国憲法に違反するのではないかという指摘もある。しかし、大統領令がターゲットにしたのは、特定の国であって、宗教そのものではない。かつてトランプ氏が選挙中に訴えた、「イスラム教徒の入国禁止」でもなければ、思想検査が行われているわけでもない。

確かに、指定された7カ国はいずれもイスラム教徒が多数派の国々だが、これらの国々に住む人々はイスラム教以外の信者であっても、アメリカ入国は禁止されるということだから、必ずしもイスラム教そのものがターゲットとは言い切れない。「信教の自由に反する」という反論は、この点で、わずかに空振りしている。

結局のところ、大統領令に対する批判の中心は、「移民の国だったはずのアメリカの国柄をトランプ氏が壊そうとしている」という点にありそうだ。この点、日本の新聞の社説の見出しを、いくつか並べてみると面白い。産経は「米入国拒否 『偉大な国」のすることか」、日経は「『偉大な米国』にほど遠い入国制限」、毎日は「入国禁止令 米国の良心汚す暴挙だ」と書いた。いずれも、「アメリカが『偉大な国』なら、寛容に移民を受け入れるべきだ」と迫る内容だ。

しかし、ここでも疑問がある。「偉大な国は、国境管理をなおざりにしなければいけない」という不文律は、いったいいつから生まれたのだろうか。そして、アメリカの国柄がどうあるべきかを、なぜ外国のメディアがお節介にも論じているのだろう。

たとえば、フランスがフランスパンの国で、日本がサムライの国で、インドがカレーの国だというのは、それぞれの国の国民が決めるべき問題である。同じように、アメリカが移民の国であるべきかどうかは、本来はアメリカ人が決めることではないだろうか。それを現地に住んでもいない外国人が決めようとするのは、ありがた迷惑どころか、無責任でもある。

私たちは、「アメリカは移民の国であってほしい」と希望を口にすることはできる。それに、アメリカ政府の行動が日本の国益を害するのであれば、その時はキチンと反論すべきだろう。しかし、アメリカがどのような国であるべきかを決めるのは、第一にアメリカ人自身の責任であって、外国人がとやかく言うべき筋合いのものではない。

国境を管理することも、国としてのあるべき姿を議論することも、他でもないアメリカ人自身が責任を持つべきことである。そうした前提に立たなければ、アメリカ人は、自分の国を自分の国だと思うことさえ、できなくなってしまうだろう。そうやって考えていくと、トランプ氏の支持者がなぜ、「アメリカ・ファースト」という主張に熱狂するのかも、見えてくるような気がする。「お前の国はこうあるべきだ」と外国に説教されて、気持ちのいい国民など、どこにもいないのだから。

(筆者ブログより転載しました。)

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