2016/08/11    12:21

「国会議員は皇室典範に手を入れられる人たちである」――この事実に、改めて驚こう

「生前退位」の意向を示唆された天皇陛下のビデオメッセージは、皇室をいただく日本の政治が、いかに特別なものなのかを教えてくれた。
 
今回のビデオメッセージの映像には、いつもと同じように、優しく穏やかな口調で、国民に語り掛けられる天皇陛下のお姿があった。この柔和なお姿こそが、まさにこの日本の社会を「象徴」してくださっている。
 
たとえ形式的なものだったとしても、内閣総理大臣は天皇陛下から任命を受け、日本の政治はその権威づけのもとに行われている。たとえ、国会では議員たちが、与野党に分かれてののしり合いをしていたとしても、それがすべてではない。いくら選挙で選ばれた市井の人間たちが、口汚い政治をしていたとしても、それを穏やかに見守っておられる存在がある。それが、この国特有の安定感をつくっている、大きな理由である。
 
海の向こうのアメリカの政治の様子と比較すれば、違いはさらに明らかだ。アメリカの大統領は名実ともに「元首」の地位にあり、国の政治を束ねるリーダーであるとともに、国の「象徴」に近い役回りでもある。その「象徴」を決める選挙では、候補者がお互いに相手を、「嘘つき」「危険人物」などとののしり合っている。確かに、ディベートと民主主義の文化を持つアメリカという国の特性がよく表れていて、傍から一種の見世物として眺めるには十分に楽しめることは間違いない。しかし、ののしり合いが政治の大部分を占めていて、さぞ疲れることだろう。
 
今回のいわゆる「生前退位」をめぐる出来事では、天皇陛下の公務の負担のあり方や、皇室典範の改定などが主な議論のそじょうに上がる。しかし、そうした制度上の問題よりも前に、日本社会の穏やかさや優しさを「象徴」するご存在がいてくださるということ、そして日本の歴史の悠久さにまずは改めて感謝したいと思う。
 
そして、今回の「生前退位」をめぐっては、私たち国民が代表である国会議員をいかに選ぶべきかという点でも、興味深い論点を示唆している。今回のようなことでもなければ意識することは少ないが、国会議員は皇室典範にも手を加えることができる人たちであるということである。皇室の制度を定めた皇室典範は戦後、法律の一種としての位置づけとなっており、改正の手続きは一般の法律と変わらない
 
国政選挙が行われるたびに、「誰がなっても同じ」という失望に満ちた“街の声”が、テレビなどを通じて伝わってくる。確かに、選挙に出ている誰を選ぼうとも、私たちの暮らしがいきなり激変してしまう可能性は少ないかもしれない。しかし、国会議員を選ぶ選挙が、「皇室典範にも手を入れられる人たちを選ぶ仕組み」だとすれば、とたんに重要度の認識は変わらざるを得ない。皇室は日本の歴史と伝統を負う存在だが、国会議員はそのあり方にさえ影響を及ぼすことができる人たちである。天皇陛下が神道の最高位の神官であり、祭祀を執り行うことがその最重要の仕事であることを踏まえれば、それはつまり、神の領域にも手を伸ばすことができるという意味でもある。
 
だからこそ、国会議員を選ぶ側である私たちは、「誰がなっても同じ」と言っていてはいけないのである。もともとの政治の意味が「まつりごと」であるなら、それなりの心構えを持って、私たちは議員を国会に送り出す必要がある。今回の天皇陛下のお気持ちの表明を受けて、こうした政治についての認識も新たにしたいものだ。

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