2016/10/03    12:45

自衛隊の特殊部隊は「吉田沙保里レベルでないと無理」という現実――どこまで「女性の活躍」?

政府は「女性の活躍」を後押しする政策を、成長戦略の旗印のひとつとして推進している。すでに、2020年までに女性管理職を3割にする方針が示されているが、安倍晋三首相がこのたび目を付けたのが、自衛隊における「女性の活躍」だ。
 
安倍首相は先月、自衛隊幹部との会合の中で、「最大の壁は根強く残る男性中心の働き方の文化だ。これを根底から変えていく必要がある」などと発言し、自衛隊のあり方を批判した。自衛官のうち女性は5.9%しかおらず、約15%のアメリカやフランス、オーストラリアに遅れをとっている。安倍首相はこうした点を念頭に、自衛隊がもっと女性が進出できる職場へと変わるように、変革を求めたのだ。
 
人材は男女を問わずに公平に処遇されるべきである。だから、女性も能力に応じて登用すべきであるというのは、ご説ごもっともだ。しかし気になるのは、安倍首相の発言から、自衛隊も政府の掲げる「女性の活躍」のお手本を示してほしいという期待がうかがわれることだ。
 
思えば、「働き方改革」を掲げれば、公務員にサマータイムを適用し、「地方創生」を掲げれば、中央省庁に地方への移転を促したりと、安倍政権は公務員を動員して、率先して政府の掲げる政策のお手本を民間に示すよう動いてきた。
 
だから今回も、自衛隊に対して「女性の活躍」の実践を求めることは、これまでの経緯からすれば理解できることだ。だが問題は、自衛隊が普通の公務員とは仕事の性質が違うという点だろう。自衛隊の任務はこの日本という国の安全を守り、この国で暮らす人々の生命を守ることである。その意味では、究極の結果責任が問われる職場である。
 
私は自衛隊のプロフェッショナリズムを信じているが、もし万が一、幹部らが政権の意向ばかりを伺う人物であったならば、安倍首相の今回の“お達し”は国を滅亡に向かわせることにもなりかねない。自衛隊が「女性の活躍」というスローガンを達成するために、国を守るためのベストな作戦や人材配置をおろそかにして、女性の割合ばかり増やしたとしたら、それは亡国への道である。
 
自衛隊は国を守る最後の砦であり、その隊員になるべき人物は能力によって登用される必要がある。「男だから」がいけないように、「女だから」でもいけない。できる仕事と、できない仕事は、見極める必要がある。産経新聞は陸上自衛隊の特殊部隊の関係者の話として、実際に女性を入隊させるとすれば、「(女子レスリングの)吉田沙保里選手レベルでなければ難しい」というコメントを紹介している(10月2日 産経新聞)。前線で戦うということを想定するならば、それが現実ということなのだろう。こうした現場の実情を考えないままで、政府が成長戦略のために「女性の活躍」を自衛隊にまで押し付けるわけにはいかないだろう。
 
ここで述べているのは、自衛隊における「女性の活躍」のすべてが問題であるという議論ではない。「物事には、時と場合がある」という道理の話をしている。
 
もしこれがまったく平和な時代の官僚組織であれば、「女性の活躍」どころか、いくらでも好き勝手な人材登用をしたところで、大きな問題はなかったかもしれない。あるいは、久しく泰平の眠りにあった江戸時代のお侍さんならば、女性でもある程度、広く務めることができたのかもしれない。
 
しかし、他ならぬ安倍首相自身が「一国だけでは平和を守れない」と言い、憲法の解釈を政府の判断ひとつで変更してまで安全保障に関する法律を成立させたほどのご時世である。自衛隊にまで「女性の活躍」の役割を負わせようとする発言は、本当にそうした“危機の時代”を公言している張本人によるものなのだろうかと、ふと自分の耳を疑いたくなった。首相の発言が示しているのは、未来型の軍隊の姿なのか、あるいは、この国の泰平の眠りの深さだろうか。

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