2015/04/24    08:00

広島の平和運動の矛盾を突いたロシアの外交官

核兵器の被害に遭った世界で唯一の国である日本にとって、その被害を今日まで伝えてきた広島は特別な場所だ。核廃絶を目指す平和運動の中心地でもある。

一方で、戦後の広島はまた、日本が歴史を反省し「不戦の誓い」を新たにする場所ということにもなっている。原爆が投下された日である8月6日の毎年の式典で、広島市長が読み上げる「平和宣言」は有名だ。

しかし、「核廃絶の願い」と「不戦の誓い」をセットにした、広島発の平和運動は一つの矛盾をはらんでいる。原爆を落としたのはアメリカであって、日本ではない。にもかかわらず、原爆投下について考える場所で、先の大戦への反省と「不戦の誓い」を捧げるというのでは、まるで日本が悪かったから原爆が降ってきたかのようなイメージを与えかねない。

実際に、原爆死没者慰霊碑には「安らかに眠って下さい 過ちは 繰返しませぬから」という“主語がない”有名な碑文が刻まれている。これでは、日本が侵略戦争という過ちを犯したから、原爆という“天罰”が降ってきたかのようにも読める。

この「主語がない平和運動」の矛盾を、このほど見事に指摘したのは、ロシアの外交官だった。

事の発端は先月、ロシア国営テレビのドキュメンタリー番組のインタビューの中での、プーチン大統領のコメントだ。プーチン氏は、昨年3月にウクライナからクリミア半島を併合する過程で、欧米からの妨害を念頭に、核兵器使用に向けた準備を進めることを検討していたことを明らかにした。

それに対し、広島市の松井一実市長が3日、プーチン大統領らに「強い憤りを覚える」との抗議文を送ったところ、アファナシエフ駐日ロシア大使からファクスで返書が届いたという。抗議文と返書は次の通り。

■ 松井市長の抗議文(4月3日)

繰り返される貴国の言動は、いかなる事情があるにせよ、被爆者の「こんな思いを他の誰にもさせてはならない」との平和への思いを踏みにじるものであり、強い憤りを覚える。

また、折しも今月27日から開催される核不拡散条約(NPT)再検討会議の成功に向け、平和首長会議を含め国際社会全体で真剣に取り組みを進めている中でのものであり、到底許し難い。

そもそも貴国にはNPT締約国として核軍縮に誠実に取り組む義務があるはずであり、NPT再検討会議を成功させるためにも、核兵器の非人道性に十分思いを致し、自らの責任を果たすよう強く要請する。
(広島市ウェブサイト 「核兵器の使用を巡るロシアの一連の言動への抗議に対する返書について」 2015/04/10)

 

■アファナシエフ・駐日ロシア大使からの返書(広島市による仮訳)

2015年4月3日の貴台の書簡を入念に拝読いたしましたが、ウラジーミル・プーチン大統領の実際の発言を誤って解釈した、根拠のない貴台の「抗議」は容認できない旨、お伝えしなければなりません。貴台及び貴市職員には、ドキュメンタリー番組「クリミア―祖国への道」の台本を注意深くお読みいただきたいと思います。(中略)

また、日本がどこの国の「核の傘」に依存しているかはよく知られています。このことは、貴台が的確に表現されているように、「こんな思いを他の誰にもさせてはならない」という言葉で表された被爆者の平和への思いとまったく矛盾しています。当然、第2次世界大戦により70年前に3千万人が犠牲になったロシアや旧ソビエト連邦の国民は、どれほど平和が尊く貴重であるか熟知しています。

市長様、貴台の書簡には、70年前、どの国が実際に広島と長崎に核爆弾を投下したのかについては言及がありません。しかし、それは世界中で知られています。私が思いますに、この国こそ貴台の「抗議」の対象ではないでしょうか。

松井市長、残念ながら、貴台の批判は完全に見当違いです。

(広島市ウェブサイト 「核兵器の使用を巡るロシアの一連の言動への抗議に対する返書について」 2015/04/10)

この手紙の中で、アファナシエフ大使は、直接に名指しはしていないものの、70年前に日本の広島と長崎に核爆弾を落とし、現在、日本がその「核の傘」に依存しているアメリカにこそ抗議すべき相手だと切り返している。誰が原爆を落としたかを曖昧にして、日本が悪かったという雰囲気を創ってきた、平和運動の矛盾をあぶり出したと言えよう。

アファナシエフ大使は14日に広島市を訪れ、原爆死没者慰霊碑に献花し、広島平和記念資料館を視察した後、松井一実市長と懇談した。懇談では、松井市長が再びプーチン大統領の発言に抗議しようとしたところ、大使は、「プーチン大統領は核兵器を使うと発言していない」と反論したという。

もっとも、核兵器の廃絶が人類の理想であることは間違いない。しかし、原爆を落とされた日本の側が悪かったかのような雰囲気を平和運動が創ってきたことは問題だろう。8月6日の式典は近年、登壇者が政府の国防政策への反対をスピーチに盛り込むなど、政治色が強まっているが、東アジアでは中国や北朝鮮といった平和を脅かす国々が、核開発を続けている。「不戦の誓い」が、「丸腰でいること」につながってはならない。

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