2015/02/19    12:00

「何もしないという選択肢がある」

今回はドラッカーの「何もしないという選択肢がある」という言葉をご紹介します。
 
経営のうえで、経営者は常に「何をするか」について考えています。しかし忘れがちではありますが「何かをする」ことを大前提とするのではなく、「何もしないことによって得られる利益」という比較判断の選択肢を常に入れておくことは大変重要です。本来「何かをすること」自体が目的なのではなく、そのアクションの結果として得られる「成果」が目的であるからです。
 
意思決定にはアクションがともない、アクションにはリソースがともないます。「リソースは常に限られている。これを最大限効果的に使い、成果をあげるために、経営者は何を優先し何をなすべきか。またなさざるべきか」と自らに問うことが重要です。限りあるリソースを成果の出ないものに投入することは、未来の機会損失にもつながり、知らず知らず本来得られたであろう利益を失っていることがあるのです。
 
経営目標により成果が決定され、成果にフォーカスしてアクションを決定する。そこで得られるであろう利益を勘案したリソースが配分される。このように、常に目的を明確にすることは本当のコスト意識でもあり、組織が大きくなればなるほど、この「何もしないという選択肢がある」という視点は重要度を増します。それは経営者の判断・選択による結果のブレ幅の大きさを意味しており、感情や思いつきにまかせて判断をした場合、その経営判断が致命傷となって経営が傾くことさえあるのです。
 
これは人事においても同様です。
 
経営者視点で社員を見ると「なぜこんなことも理解してくれないのか」「経営状況が悪いのだからこれぐらいわかって欲しい」「自分の給料分も働いてくれない」など、一度ならずこのような言葉が脳裏をよぎった経営者は多いと思います。これについて『何もしないという選択肢がある』ことを実践したとも言える、大変示唆に富むリンカンの逸話があるのでご紹介します。 

 「ミード将軍へ、決して送らない、または、署名しない手紙」
 
わたしは、敵将リーの脱出によってもたらされる不幸な事態の重要性を、貴下が正しく認識されているとは思えません。敵はまさにわが掌中にあったのです。追撃さえすれば、このところわが軍のおさめた戦果とあいまって、戦争は終結にみちびかれたに相違ありません。しかるに、この好機を逸した現在では、戦争の終結の見込みはまったく立たなくなってしまいました。貴下にとっては、去る月曜日にリーを攻撃するのがもっとも安全だったのです。それをしも、やれなかったとすれば、彼が対岸に渡ってしまった今となって、彼を攻撃することは、絶対に不可能でしょう。あの日の兵力の三分の二しか、今では、使えないのです。今後、貴下の活躍に期待することは無理なように思われます。事実、わたしは期待していません。貴下は千載一遇の好機を逃したのです。そのために、わたしもまたはかり知れない苦しみを味わっています。

(デール・カーネギー著 『人を動かす(新装版)』 創元社)

 当時、アメリカ南北戦争時代、北軍の司令官であったミード将軍は、敵である南軍を壊滅させる好機に恵まれながらそれを逃してしまいました。自分の指示にしたがわす戦争を延期させてしまったミード将軍に対して怒ったリンカンは、怒りにまかせてミード将軍宛に辛辣極まる手紙を書きました。しかしリンカンはこの手紙をミード将軍に送りませんでした。この手紙はリンカンの死後100年後に彼の書類の中から発見されました。リンカンは怒りにまかせて手紙を書いた後、必死に心を落ち着け、冷静になる努力をし熟考しました。そして「この手紙はゲティスバーグの勝利に貢献しない。むしろさらなる混乱や損害につながる可能性が高い」と結論し手紙を机の奥にしまってしまいました。
   
「感情にまかせて人を非難しても、お互いに益が少なく、相手の非を責め論破したとしても、実はそこには勝者はいないのだ」ということを教えてくれる訓戒に富んだ逸話ですね。
 
「何もしないという選択肢」は未来志向の経営者を冷静にしてくれます。 

『One Alternative is Doing Nothing』
 
One alternative is always the alternative of doing nothing. Every decision is like surgery. It is an intervention into a system and therefore carries with it the risk of shock. One does not make unnecessary decisions any more than a good surgeon does unnecessary surgery.   Peter.F.Drucker 『The Effective Executive』
 
『何もしないという選択肢がある』
 
何もしないという代替案が常に存在する。意思決定は外科手術である。システムに対する干渉であり、ショックのリスクを伴う。よい外科医が不要な手術を行わないように、不要な決定を行ってはならない。
(P. F. ドラッカー 『経営者の条件』 ダイヤモンド社)

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