2016/01/02    08:00

【社説読み比べ】 慰安婦問題 日韓合意 本当に最終決着したのか

岸田文雄外相は先月28日、ソウルで韓国の尹炳世(ユンビョンセ)外相と会談を開き、懸案となっている慰安婦問題について合意を交わした。

日本側が「軍の関与の下」で起きた問題であることを認め、「日本政府は責任を痛感する」とした上で、安倍信三首相が「おわびと反省の気持ち」を表明。元慰安婦支援のために韓国政府が新たに設立する財団に、日本から10億円を拠出する。日韓双方が、この枠組みを「最終的かつ不可逆的解決」として、今後は互いに避難、批判を控えることを確認した。

主要各紙は、翌29日の第1面で大々的に報じ、社説を掲載しているので、それぞれを読み比べてみる。
 

朝日、毎日、日経:問題長期化は双方に責任

朝日新聞は、問題の長期化の責任が日韓双方にあるように示唆しつつ、「日韓両国はワシントンを主舞台として、激しい『告げ口』外交を展開してきた」などと、日本も問題の長期化を招く原因をつくったという表現をも盛り込んでいる。

また、「日本側からもナショナリズムにかられた不満の声がでかねない」と、日本の保守層からの反発に対する予防線を張ることも忘れていない。

一方、韓国の尹炳世(ユンビョンセ)外相も日本政府に応えた。

今回の合意について、「日本政府の措置の着実な実施」という前提つきながら、「最終的かつ不可逆的に解決されることを確認する」と言い切った。

日本側から「韓国は約束してもゴールポストを動かす」と批判されていたことを意識したうえでの確約の表明である。(中略)

新たに設けられる財団の運営のあり方については今後、詰められる。何より優先すべきは、存命者が50人を切ってしまった元慰安婦たちのそれぞれの気持ちをくむことだろう。

韓国の支援団体は合意について「被害者や国民を裏切る外交的談合」と非難している。日本側からもナショナリズムにかられた不満の声がでかねない。(中略)

この半世紀で日韓関係は大きく飛躍した。韓国の1人あたりの国民所得は、当時の100ドル余りが今や3万ドルの目前。そこには日本の経済協力金が役立った。そして日本も、急成長する韓国から莫大(ばくだい)な利益を得た。

ともに協力し合い、利益を広げる互恵の関係がこの半世紀の歩みだったし、これからもあるべき隣国関係の姿である。

日韓の国交正常化を強く後押しした米国は、今回の和解にも大きく関与した。この2年半、日韓両国はワシントンを主舞台として、激しい「告げ口」外交を展開してきた。

その結果、傷つき、疲れ果てた日韓が悟ったのは「不毛な争いは何も生み出さない」というあたり前のことであり、対話という原点に戻ることだった。
(朝日新聞 「(社説)慰安婦問題の合意 歴史を越え日韓の前進を」 2015/12/29)


毎日新聞は、「(慰安所は)兵士による強姦事件の多発に頭を痛めた軍が業者に開設させた」と、当時の日本軍が主導して慰安所を設置し、管理していたと記述し、「(慰安婦は)意思に反して集められた事例が数多く」と、強制性を示唆する表現を使っている。

また、「問題を蒸し返してきたのは韓国側だけではない。政府間で前向きな動きがあっても、日本の政治家やメディアが植民地支配を正当化したり、元慰安婦を中傷したりした」と、慰安婦問題を否定する論陣を批判している。

日本側は外相会談で慰安婦問題に関して「責任を痛感する」と表明した。日本はこれまで、1965年の日韓請求権協定で法的には解決済みだとして「道義的な責任」という表現にとどめてきた。

一方で韓国は「反人道的な不法行為」である慰安婦問題は請求権協定で解決されていないという立場から「法的責任」を求めてきた。

道義的か法的かを、あえて明確にしないことで双方が歩み寄り、決着につながった。

日本政府が韓国の設立する財団に10億円を拠出する点も大きい。アジア女性基金は国民からの寄付金を軸にしたため韓国側が「政府の責任をごまかそうとしている」と反発した。公的な資金を出すことは政府の責任をより明確化させることになる。(中略)

慰安所が生まれ、定着したのは日中戦争の時期だ。兵士による強姦(ごうかん)事件の多発に頭を痛めた軍が業者に開設させた。軍は細かい規則を作って管理する一方、避妊具を支給したり、移動に便宜を図ったりしていた。

貧困のために慰安婦とならざるを得なかった女性も多かったと言われる。93年の河野談話が指摘したように「意思に反して集められた事例が数多く」あったことは否定しがたい。慰安婦制度が女性の尊厳を踏みにじるものであることは明白だ。(中略)

日本は、解決策が最終的なものとなる確約を重視した。韓国政府が日本の対応をいったん評価してから、世論の反発を受けると一転して強硬姿勢に転じることを繰り返してきたという思いがあるからだ。アジア女性基金の取り組みを無視されたといういらだちもあった。

ただ、問題を蒸し返してきたのは韓国側だけではない。政府間で前向きな動きがあっても、日本の政治家やメディアが植民地支配を正当化したり、元慰安婦を中傷したりしたことが、日韓関係をより複雑化させてきたことは事実だ。
(毎日新聞 「社説 慰安婦問題 日韓の合意を歓迎する」 2015/12/29)


日経新聞も、日本側の責任を指摘。「典型例は安倍政権が、旧日本軍の関与を認め謝罪した『河野談話』を再検証したこと」が、韓国側の反発を招いたとし、「慰安婦問題を女性の人権問題ととらえる欧米の疑心も呼び、日本への不信が国際的に広がる要因」となったと、日本政府側の責任を指摘している。

一方で、「韓国政府には世論対策を含めた真摯な対応を求めたい」と述べている。

日本政府は慰安婦問題を含めた戦後の賠償問題について、1965年の日韓国交正常化の際に結んだ請求権協定で「完全かつ最終的に解決された」との立場を貫く。今回もその原則は堅持しつつ、心身に深い傷を負った元慰安婦への人道的な配慮から政府予算による拠出を決めたようだ。

韓国政府も日本が求めた「最終的解決」に同意し、「少女像」の大使館前からの撤去にも主体的に取り組む姿勢を示した。双方の譲歩が妥結につながったといえる。(中略)

この間、日本側の対応にも原因がなかったわけではない。典型例は安倍政権が、旧日本軍の関与を認め謝罪した「河野談話」を再検証したことだ。韓国はこれを談話の否定と受け止め、相互不信を一層深めた。さらに慰安婦問題を女性の人権問題ととらえる欧米の疑心も呼び、日本への不信が国際的に広がる要因ともなっていた。

今回の合意には日韓双方に不満の声も出るだろう。だが、ようやく達成した合意である。過去の苦い教訓も踏まえつつ、日韓が着実に履行することが肝要だ。

とくに韓国政府には世論対策を含めた真摯な対応を求めたい。過去に日本側が実施したアジア女性基金を通じた償い事業は、元慰安婦を支援する市民団体らの抵抗に遭い、韓国で十分な成果を上げられなかった経緯があるからだ。

日本大使館前の「少女像」もその市民団体が設置した。朴政権は責任をもって、世論や市民団体を粘り強く説得してもらいたい。
(日本経済新聞 「社説 「慰安婦」決着弾みに日韓再構築を」 2015/12/29)

 

読売・産経:韓国の努力次第だが、安倍首相は禍根残した

読売新聞は、「政府の資金拠出が事実上の国家賠償と誤解されないか」と懸念を示している。そして、95年に設置された「アジア女性基金」が失敗した過去に触れながら、「主たる責任は無論、韓国側にある」と明言している。

また、朴槿恵大統領に対して、「自らが煽日本国内で高まった『嫌韓感情』を収める努力」と、「第三国で日本を批判する『告げ口外交』や、韓国系団体が米国各地で慰安婦像を設置している問題への反省」が必要だと述べている。

日本は、1965年の日韓請求権協定で元慰安婦らの補償問題は解決済みと主張してきた。新基金はあくまで人道支援であり、日本の法的な立場は損なわれない。ただ、政府の資金拠出が事実上の国家賠償と誤解されないか。(中略)

日本は95年にアジア女性基金を設置し、首相のお詫びの手紙や「償い金」などを元慰安婦61人に渡した。だが、韓国側は評価せず、国内向けに説明しなかったため、日本側に不満が残った。

この轍を踏んではなるまい。(中略)

大切なのは、日韓共同の新基金事業を着実に軌道に乗せるとともに、韓国が将来、再び問題を蒸し返さないようにすることだ。

その主たる責任は無論、韓国側にある。かつて金大中、盧武鉉両大統領らが歴史認識に関して「今後、過去の問題は出さない」などと明言したのに、国内世論に流され、態度を翻したからだ。(中略)

朴氏に求められるのは、自らが煽日本国内で高まった「嫌韓感情」を収める努力だろう。第三国で日本を批判する「告げ口外交」や、韓国系団体が米国各地で慰安婦像を設置している問題への反省も必要ではないか。(中略)

日韓両国が歴史認識の問題を克服することができれば、最近、中国に急速に接近する韓国を日米の側に引き戻すことにつながる。歴史を外交カードに利用する中国を牽制しつつ、日中関係を前に進めるという戦略的な意義もある。
(読売新聞 「社説 慰安婦問題合意 韓国は「不可逆的解決」を守れ」 2015/12/29)


産経新聞は、安倍首相の意図を汲みつつも、「日本側が譲歩した玉虫色の決着という印象は否めない。このことが将来に禍根を残さないか」と懸念する。

そして、韓国側の合意内容が実行されていない現時点では、「『妥結』の本当の評価を下すには、まだ時間がかかる」として、今回の会談の成否について述べることを保留している。

不正常な状態が続く日韓関係をこれ以上、放置できなかった。膠着(こうちゃく)していた慰安婦問題の合意を政府が図ったのは、ここに重点を置いたものだろう。(中略)

だが、合意内容を具体的にみると、日本側が譲歩した玉虫色の決着という印象は否めない。このことが将来に禍根を残さないか。

その一つが、安倍首相が表明したおわびの内容として、慰安婦問題について「当時の軍の関与のもとに、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた」と、「軍関与」に言及したことだ。(中略)

在韓日本大使館前に設置された慰安婦像について、尹外相は「日本政府が公館の安寧、威厳の維持といった観点から懸念している」と言及したが、その撤去については「関連団体との協議を通じて適切に解決されるよう努力する」とするにとどまった。(中略)

政府間で合意した以上、指導者はこれを受け入れるよう国民を説得し、支援団体などを納得させるべきだ。

韓国側は過去、日本側の謝罪を受け何度か、慰安婦問題の決着を表明しながら、政権が交代し、蒸し返した経緯がある。

「妥結」の本当の評価を下すには、まだ時間がかかる。
(産経新聞 「【主張】慰安婦日韓合意、本当にこれで最終決着か 韓国側の約束履行を注視する」 2015/12/29)


この問題が長期化したことについて、日韓双方に責任があるとする主張と、韓国側に主な責任があるとする論調とで分かれた。

毎日新聞のように、慰安婦問題に関して、政府による強制を過度に強調する報道には疑問が残る。一方、朝日新聞は、一読すると“喧嘩両成敗”のような論調でありながら、「元慰安婦たちのそれぞれの気持ちをくむ」べきであると、韓国側寄りの文言も忘れないのは、巧妙な世論誘導ではないだろうか。

産経新聞が述べているように、来年は、韓国側の言動を注視して、事の推移を見守る必要がありそうだ。

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